09.じらす
同じクラスに居る、
席が隣りの男は何故かいつも私を待っている。
机に座って足をぶらぶらさせて、何故か私を待っている。
掃除の時も委員会の時も隣のクラスの子と話が盛り上がってしまった時も、いつも必ず待っている。
そのせいで部活もサボリ気味らしい。
私は彼の彼女じゃないんだし?ただのクラスメイトって奴で。
こいつが部活をサボろうがどうしようが全く関係ないんだけど…、
何で毎日毎日こいつの部活の先輩に呼び出されて泣きつかれなきゃいけないわけ?
ほんっと、いい迷惑だ。
「早く帰ろう、ナミぃー」
「さっさと帰れば」
「お前待ってるんじゃねぇか」
「誰も待っててなんて頼んでないでしょ」
「そんなの知るか!おれが待ってるって決めたんだ」
「だったら黙ってて」
「むー」
日直だから日誌を書いている、それだけ。
本当ならば相手の男も手伝うべきなんだろうけど…こいつは手伝うこともせずに私を待っている。
手伝ってくれないなら部活に行くとか、さっさと帰れば良いのに。
クラスの子達があんたのことを何て言ってるか知ってるの?
あんたのこと「忠犬」って呼んでるんだから、「飼い主」として名前を出される私としては恥ずかしいったらないわ。
付き合ってもいないのに変な噂は立てられるし…もはやクラスの名物にまでなってるし。
私だって鬼じゃない。
ルフィがどうして待ってくれてるのかくらい想像が付く。
でも彼は待ってるだけ。
こいつと一緒に帰ったって他愛のない話をするだけ。
だから私は期待すればするだけ、返って失望する。
噂が一人歩きしているだけなのかもしれない。
だってルフィは私と二人きりになったって触れてもこなければ何にも言ってもこない。
少なからず噂を真に受けて、毎日家まで送ってくれる度に期待を膨らます私の気持ちは宙に浮いたまま。
「っていうか部活出なさいよ、サンジ君に毎日毎日泣きつかれる私の身にもなってよね」
「んーサンジはおれに部活出て欲しい訳じゃねぇぞ」
「そんなことないんじゃない?サンジ君あんたに部活出るように説得してくれって毎日頼みに来るもの」
「…狙ってるからだろ」
「サンジ君は3年生だから今年最後でしょ?そりゃいい成績残して引退したいわよ」
「呑気だな、お前」
ぴょんっと座っていた机から飛び降りたと思ったら。
隣りで律儀に席に座って日誌を書いている私に近付いて来た。
どうせ「日誌なんて肉って書いとけばいいじゃねぇか」って、
いつものように口を挟んで早く帰ろうと駄々を捏ね始めるだろうと思って油断していたのかもしれない。
ふと、日誌に影が掛かる。
鉛筆を動かしていた手を掴まれて、動きを止められて。
何事かと思って顔を上げたら…そこには、いつもよりも近い彼の顔があった。
不意打ちすぎる彼の真面目な表情に何だか流れていた時間が止まった、ような錯覚に陥る。
「ナミ」
「な、なに?」
「そこ間違ってるぞ」
「…へ?」
「4時間目はスーガクじゃなくて、早弁の時間だっただろ」
「…う、うん」
思わず消しゴムで「数学」と書かれている文字を消してしまったけれど。
我に返って自分が間違っていないことに気付く。早弁の時間はルフィだけだってば。
あーもう、やってしまった。
こいつに吸い込まれて、いつもみたいな憎まれ口を叩くのを忘れてたわ。
何期待してんのよ、心の中で毒づきながら再び鉛筆を走らす。
いい加減に日誌を書き終えて早く帰宅したい。
さっきまで全然気にしていなかったのに…幸か不幸か、夕日が差し込む放課後の教室には私とルフィしか居ない。
ルフィの行動に突然、二人であることを意識し始めてしまったらこの空間が苦しくて仕方がないのだ。
「ししし!良かった!」
「…何が?」
「おれの入る場所があったから」
「場所?」
「ナミの心の中はサンジで一杯なのかと思ってたぞ、おれ」
「別にサンジ君とはそういうんじゃないし」
「おうっ!ナミはサンジじゃなくて、おれにどきどきしてくれたもんな!それが嬉しい」
「う、うるさい」
笑った顔が眩しいなって思った。
初めて会った時の印象は「それ」で、気付けばその笑顔にドキドキしてる自分が居て。
私は今日も見れたらいいなって思いながら学校の門をくぐるんだ。
今日も見れた彼の笑顔は眩しいというよりも、…憎たらしい。
人の気持ちを見破って、俯く私とは裏腹にルフィは嬉しそうに笑ってる。
最悪。
出回る噂は、ほとんどが「彼が私にぞっこん」っていう噂ばかりなのに。
ルフィは、その噂を聞いたって否定することもなく笑ってるだけだから勝手に調子付いていたけれど。
これじゃ私が彼にぞっこんみたいじゃない?
「もっとどきどきさせたいな、おれ」
「…充分だってば」
「我慢すんの疲れた。おれいっぱい我慢したんだ、ちゅーくらいさせろ」
「ル、ルフィ、待って。ここ学校だから誰かに見られる、かもしれないし…」
「見せ付ければいいだろ」
「何言ってんのよ」
「おれは見せ付けてぇって、ずっと思ってたぞ」
もう日誌どころじゃない。
日誌を書き途中にも関わらずキスをされてしまった。
私の見開かれた瞳が映しているのは嬉しそうに目を瞑っている、ルフィのまつげ。
噂では何度も耳にしたけれど。
まだ、あんたの口から好きって言葉もらえてないんだけど。
それなのに何でキスしてんのよ、こいつ。
離れて行く唇が心なしか寂しい。
ここが学校で、しかも毎日生活をしている教室だっていうことすらも忘れて。
あんたの唇の熱が冷めない内に、私は懸命に強請るのだ。彼からの言葉がどうしても欲しいから。
「…まだ貰えてないんだけど?」
「んん?」
「いつまで焦らすつもり?」
「じらす?」
「ちゃんと好きって言って」
「知ってんだろ。おれの気持ち」
「知ってるから言わなくて良いってものじゃないでしょ」
夕日の差し込む教室。
再び私に顔を近付けて来た男は「好きだ」と男前に言ってのけて、それから。
甘えるように目を瞑り2度目のキスを強請って来た。
きょろきょろと辺りを見渡して人の気配がないことを確認してから合わせた唇。
満足してくれた彼は太っ腹に「よし、続きはおれが書いてやる」と言い、私の手から鉛筆を奪って日誌に視線を落とす。
そういうことを願った訳じゃなかったのに。
ルフィが書いてくれた今日の日誌の内容なんて恥ずかしくて提出できたものじゃない。
『やっとナミをおれのもんにした。おれはナミがだいすきだ。手ぇ出すなよ。 おれ』
私が書いていた字の上に汚い字で、そんなことを書き出した。
ありえない。
こんなこと日誌に書いたら次の日どうなるかくらい容易に想像が付く。
「ちょっと!日誌に何書いてんのよ!」
「日誌も終わったし一緒に帰ろう」
「…書き直す」
「今日はちょっと遠回りして手ぇ繋いで帰るんだ、なっ!」
繋がれた手に鉛筆を握ることも許されなくて。
書き直すことも出来ずに彼の手によって先生に渡ってしまった日誌に泣けてくる。
だけど私は彼とした「放課後の遠回りデート」に、
そんなこともすっかり忘れて明日も元気に彼の笑顔見たさに登校してしまうのだ。
明日の私を待ち望んでいるものは、
からかいにも似た友達の祝福の声と日誌にああいうことを書いたので先生の説教。
それと…明日も大好きな彼との放課後デートが待っている。
サンジ君にはルフィのサボリを大目に見てもらうことにしようっと。
サンちゃんは思いっきり船長をダシにしてナミにアタックしに二人のクラスにまで遊びに来るといいよ!
その度にナミは「あ、サンジ君」とか言って呑気に歓迎ムードを漂わせるから船長は面白くなければいいよ!
次の日にサンちゃんと船長の間で朝からナミ取り合い喧嘩をしてればいいよ↓
「てめぇルフィ!先輩を立てるのが後輩の役目だろーが!何ナミさんに手ぇ出してんだ、あぁ?」
「サンジ、腹減った。メシ。今日はナミと一緒に食いてぇから二人分な!」
「何?ナミさんも?よし、ナミさん限定サンジ、愛のメモリアル弁当を作ってやるぜ!こうしちゃいられねぇ、今日は早退だ」
こういうサンちゃんが好きです(どーん)